さしも強盛を誇った漢帝國も、いつまでもその武威が衰なかったわけではない。ことに北方の騎馬民族の匈奴の存在は、悩みの種だった。高祖にしてからが、多額の貢物を納め皇女をおくって匈奴王の妻の一人にするという甚だ不名譽な講和條約を結(jié)んでいるくらいだから、歴代の皇帝や政府の首脳部の苦労のほども察せられよう。

　　さて四代目の文帝の時に、甘粛省の隴西に李広という勇將があった。

　　例の?猿臂?の豪傑である。この李広將軍のたてた手柄は數(shù)多くあるが、景帝の時代の次のエピソードは有名だ。匈奴の勢力圏深く、百騎ばかりの精鋭を選って奇襲攻撃を試みた時のことである。目ざす敵は倒したものの、知らぬ間に遠巻きに敵の大部隊が近づき、たちまち戦闘態(tài)勢に移りはじめた。味方の軍が浮足立ち、算を亂して逃げようとした時に、立ちふさがった李広は、

　　「落著け、下手に逃げては、匈奴の好餌になるだけだ。

　　踏み止まってこそ、生きる道がある。

　　落著くのだ。

　　そして誘いの部隊だとおもいこませることが大切だ?！?/p>

　　信頼する將軍の理にかなった、死中に活を求めるこの言葉に一同は安んじて従った。李広は逃げるどころか馬首をめぐらして敵に近づき、部下に命令をくだすのだった。

　　「馬から下りて鞍を解け?！?/p>

　　あまりの大膽不敵な振舞に、匈奴の大軍もすっかり気を呑まれて攻め寄せてこない。李広將軍のことだから、計略があるのだろう。伏兵に掛かってはたまらない。敵のひるむのを見てとった李広は、十?dāng)?shù)騎の剛の者と共に馬の腹帯をしめなおし、疾風(fēng)のように匈奴の陣にあらわれ、先頭に立って指揮をしていた敵の大將を射殺してしまったのだった。大將を討たれておじけづいた大軍を尻目に、一兵も損なわずに李広の一隊は戻ってきたのだった。「史記」の「李將軍列伝」の賛に言う。

　　「將軍は口はうまくなかったが、その誠実さは天下に知られていた。

　　桃李言わざれども下自から蹊を成すと世の諺にもあるではないか??

　?。ㄌ依瞍?、李広の姓の李にも通ずる）

　　（桃や李は何もいわないが、人はその花の美しいのを見に來て、下に自然とこみちができる）

　　ちなみに言う、成蹊學(xué)園の校名の出典も、ここにある。